発達障害として、僕は生まれました。
父も母も発達障害を持っていました。
父はエンジニア、母は歌手でした。

両親の両親も発達障害でした。
僕らはみんな、家族コミュニケーションができない家庭で育ちました。
父は世間知らずに、母は虐げられて育ちました。
僕は母のヒステリーに耐えながら、父の押し付けに耐えながら育ちました。
もしかしたら、僕が男に育ったのは、父の男尊女卑の思想のせいかも知れません。
母は浪費家で、本当にヒステリーが起きます。語彙の粋を集めたような罵詈雑言に幼いころから晒されてきました。
父も母も大人の中二病患者でした。

頭の悪い僕は、学校でもバカにされていました。
友達と言える友達は、今までできたことがありません。
舎弟になるか、読者になってもらう関係しか知りません。
合作したこともありますが、彼らにとってそれは所詮遊びに過ぎませんでした。

僕は物凄くブサイクでした。
女と名乗るのが恥ずかしいほどの顔でした。
目つきの悪い一重、あるのか無いのか分からない眉毛、
横幅の1/3にも満たない口。
変態のようで、目を背けたくなるような顔でした。
次第に、自分を女だと自覚することはなくなりました。
美しいものに関心もなくなっていき、男性に対する憧れがゆっくり育ちました。
自分を男性と思い込む生活が10年以上続きました。
女子と話す機会もなく、鏡という鏡から目を逸らし、
僕の心はきっと男性だと言えるようになりました。
そして、いつかきっと本物の男性になり、普通の人生を送りたいと願うようになりました。

疲れ切った小学校を離れると決めたのは僕でした。
一生に一度の「逃亡」にしようと誓いました。
附属小学校を離れ、公立に行きたいと言いました。
もう二度と、逃げないと誓ったことを、よく覚えています。
だけど人は、一度やったことは、何度もやるのかもしれません。

中学は柔道部に入りました。
漫画家としての体力をつけるためです。
ですが鎖骨を折ってしまい、それが母の怒りを買いました。
結局、辞める以外に道はありませんでした。
僕はまた、道を逸らされました。

気が付けば僕は、人間関係を一切避けて生きるようになっていました。
同年齢の子供との話し方もまるで分からなくなっていました。
自分に対する自信のなさから、不安ばかり募るようになりました。
両親にも、周りにも、本音を言うことは一切ありませんでした。
いつかきっと、独り暮らしをして、男になって、漫画家になれば、僕の苦しみが無駄じゃなくなる。
それだけが僕の生きる綱でした。
そのために、中学一年生から、昼食を抜いて、欲しいゲームも我慢して、ずっと手術代を貯めました。
学費の安い国立大に受かるために、毎日、毎日、一日も休まずに図書館に通い、お尻が痛くても、肩が痛くても、眠くても、がむしゃらに、必死に勉強しました。
どんなストレスも、男になればチャラになると思って、
負債を抱え込むだけ抱え込んでいました。
きっと、ADHDの過集中もあると思います。

そして、念願の大学合格。
不安だから、必要の何倍も勉強したと思います。
合格判定Aでも、グシャグシャに丸めて捨てていました。そして、C判定を大事に壁に貼ったりしていましたから。
そこまで全精力をつぎ込んで勉強したとしても、偏差値は所詮60を満たすかどうか。
自分の頭の悪さにはほとほと呆れました。

だけど、努力の才能なら負けない、と思っていました。

僕の人生は、どうなるでしょうか？
慧彗さんとの約束通り、漫画家になれるでしょうか？
努力さえすれば、絶対なれる。
難しいかもしれないが、やるだけやってみようと思いました。

さあ、京都生活の始まりです。
漫画を描きまくって、
二十歳になったら性転換して、
あわよくば卒業もして、
京都観光して、
博物感も、美術館も行って、
色々な授業を受けて、
映画も1日1本観よう。

絶対に、漫画家になってみせる。
何を犠牲にしたとしても。

もう、それしか生きる道はない。

遊びの時間は、もう終わりだ。
これからは、命を懸けて生きる。

そうして、歪んだ僕の人生は、
ますます歪みに向かって進んでいくのでした。