たしかCBCだったな。今回はまぁ、嘘か。
―――ねえ、兄ちゃん、なんでこの世にスーパーヒーローは存在しないの?
かつて弟が訊いた。
「素手で隕石を止めるスーパーヒーローはいないけど、警察だって、ビジランテだってヒーローだろう」
「でも、警察たちが僕達を守ってくれる? くれないよね…。」
僕らはユダヤ人だ。
関係はないかもしれない。
けど、関係するという人もいる。
みなし子だから、という方が大きいかもしれない。
「僕ね、大きくなったら、科学者になりたいなあ。警察官はいやだな、自由がないから、本当の悪と戦えない」
「そうだね、本当に、そうだね」
あれから、7年経った。
彼はどうしているだろう。
彼は引き取られて、孤児院を去ったから。
そういえば、私が「ファントム」として活動を続ける決意をしたのも、弟がきっかけだった。
彼は物心ついた頃は、嘘つきな、卑しい少年だった。
いや、嘘つき、という点では、わたしも同じだろう。素顔を隠し、顔を隠して、生きているのだから。
「あっちに万引き犯がいるよ」
「あっちで誰か倒れてる!」
弟は、そんな嘘を日常茶飯的についていた。きっと、人が怒るのが楽しかったのだろう。人が自分の話を聞いてくれるのが嬉しかったのだろう。私は―――いや、ファントムは、その嘘に毎度丁寧に対応した。時に犬が溺れていると言われ増水した川に潜らされることもあったし、向かった先に爆弾が仕掛けられていることもあった(子供の作るものなので、まぁ、大した威力ではなかったのが幸いした)が、何とか一命を取りとめた。
私は、ファントムでいる間は、決して人を疑わない。
それが「ヒーロー」のはじめの一歩であると考えているからだ。
しかし、そんなことを永遠にしていたのでは持たないから、一日5時間と決めている。5時間、それが「スーパーヒーロー」ではない私の活動のタイムリミットだ。
私の行為に罪悪感が疼いたか、それともただ、強さに憧れただけかもしれぬが、それきり彼は嘘をつかなくなった。そして、罪を憎むようにもなった。彼が罪を憎むわけは、両親をマフィアに殺されたことにも由来しているのかもしれない。
ファントムが私だと言うことは、彼にも内緒だった。当時は恥ずかしかったのもある。
そして私は、少しずつでもいい、スーパーヒーローでなくてもいい、彼のような少年だけでもいいから、救ってやるために、「ファントム」になり続けると誓ったのだ。
そんな彼と、私は今日、念願の再会を果たした。彼は約束通り科学者となり、「かつて闇から救ってくれたお礼がしたい」と言った。
「これは?」
緑色の、コンタクトレンズ、―――と思しきものが、「1つ」だった。
「見た目は普通のコンタクト。はめてみて」
ファントムでいる時は、人を疑わない。
私は彼の言う通りに、コンタクトレンズを右目にはめた。
「な、なんだ、これは?」
「それは「スマート・アイ」。赤外線を見たり、ほかにも色々できるから、試してみるといい」
「恩に着る」
「―――ねえ、ファントム。もしかしてあなたは――エトワ・シャルロンティじゃないのかい? 僕の兄の…」
「―――正体は、誰に対しても明かせない。用事があるときは、また、手紙を出してくれ」
「ビジランテ協会に―――ね。仕方ないな。まぁ、あのお気楽な兄ちゃんとあんたじゃ、キャラ違いすぎるけどね」
ごめんよ、ラルフ。
万に一つでも、君が悪の組織との繋がりがないと言えない限り、正体を明かすことはできない。
それが、私の唯一の「欠点」だ―――。
頭を撫でたい気持ちを、こらえるのがやっとだった。